合格小論文を書くための
良いアイデアの出し方
文章を書くときには、いきなり解答用紙を埋めていこうとしてもそうそういいものが書けるはずはない。プロの作家でもそんなことはまずしない。誰だって新しいテーマを前にしたら、「何を書いていいかわからない」と思うのが普通である。
文章を書く上で最初にすることは、考えつくだけアイデアを出して、それを書き出すことだ。頭の中で考えるだけでなく、実際に手を動かして、メモを書くことが大切となる。書き出した言葉が刺激になって、思いもしない次の新しい言葉を引っ張り出してくれることは多々ある。そうやって、頭の中にあるアイデアのタネが花開いていく。
3WHAT・3W・1H
小論文の場合も、アイデアメモの充実が中身の充実度を決める。そのようなわけで、普段から小論文を書く際にはメモをつくる時間をできるだけとろう。
小論文を書くことに慣れないうちは、テーマをみてもアイデアをなかなか思いつくことができないかもしれない。アイデアを出すためにぜひ覚えたいのが「3WHAT・3W・1H」だ。合格小論文を書くための良いアイデアを導き出す糸口と理解してほしい。
定義、現象、結果を考える
最初の3WHATとは、「定義(何を意味しているのか)」「現象(現在、何が起こっているのか)」「結果(今後、何が起こると予想されるか)」の3つを指す。「観光公害」というテーマを例に挙げながら、それぞれどういったメモを書くと良いのかを紹介したい。
定義を考えることで、論点を明確にすることができる。「観光公害」とは何を意味するのかを考える。あわせて、そもそも「観光」とはどうあるべきかを考えてみるのもよいだろう。そうすることで、観光公害と言われる状況が、本来あるべき観光の姿とどれほどかけ離れているのかが見えてくる。
現象は、問題点を整理するために必ず考えておく必要がある。「観光公害」と言われる現象としてどのようなことが起こっているのか、「観光公害」に対し、どのようなことが議論されているかを考えてみるとよい。
結果は、テーマによっては考えなくてもよいが、結果を考えることで見えていなかった問題点がわかることもある。観光公害によって、社会に、人々に、どのような結果をもたらしているのか、観光公害という状況をこのまま放っておくとどうなるのかを考えてみるとよい。
理由・背景、歴史的状況、地理的状況を考える
3Wは「WHY(なぜ)」「WHERE(どこで)」「WHEN(いつ)」の3つを指す。3WHATと同様に「観光公害」というテーマを例に挙げながら、それぞれどういったメモを書くと良いのかを説明しよう。
WHYとは、それが起こった理由や背景を考えることだ。「なぜ観光公害は広がったのか」「なぜ観光公害が社会にとって不利益だと言われるのか」などを考えていく。理由・背景はどんな問題においても、必ず考えなくてはならない。小論文の出来を左右するのは、自分の意見の根拠を書く展開部だが、理由・背景を考えることで、ここに使うアイデアを導き出せることが多い。
意見の根拠を考えるためには、単なる理由だけでなく、問題の背景を考える必要がある。どんな問題であれ、それがただの出来事でなく、賛否を呼ぶような「問題」と言われるようになるには、それに応じた社会的背景がある。観光公害が問題視されるようになったのは、政府の観光立国政策により外国人観光客が日本に押し寄せたことが背景にある。大半の外国人観光客は日本の文化や社会規範をよく理解していない。それゆえに、普通に暮らす日本の住民との間に軋轢が生じている。こういった背景に気が付くと、説得力のある根拠をまとめられるようになる。
WHEREは、ほかの国や地域ではどうかという地理的状況を考えてみることだ。「日本以外でも観光公害が問題になっている国はあるか」「京都や鎌倉などの寺社仏閣の多い地域での観光公害がよく問題視されるが、ほかの地域ではどうか」などを考えればいい。
WHENは、かつてはどうだったか、いつからそうなったかという歴史的状況を考えてみることだ。「過去にも世界の国や地域において観光公害を問題視されたことがあるか」「いつから観光公害が問題視されるようになったのか」などを考える。
地理的状況と歴史的状況は必ずしも考えなくてもよい。まずは理由・背景をじっくり考えて、それでも鋭い根拠が見つからなかった場合に考えてみるのでもよいだろう。
対策を考える
1Hは「HOW(どうやって)」を指す。その問題にどう対処するかという対策を考える。「観光公害を減らすにはどうしたらよいか」といったことを考えればよい。対策はいつも考える必要はない。問題によっては考えなくてよいことも多い。しかし、場合によっては、対策を考えることで論が具体的になって説得力が増すこともある。
近年増えている提言型の出題(対策やアイデアを直接問う問題)の場合には、対策を中心に考える必要がある。なお、説得力のある対策を考えるためには、「対策を打つことで、現状をどのように変えたいのか」をはっきりさせることが大切だ。「観光公害を減らすにはどうしたらよいか」という対策を考える前に「訪れる外国人観光客自体を減らしたいのか」「訪れる数を減らすのでなく、訪れる人の意識改革を図りたいのか」など、現状をどう変えたいのかを明確にする。そのうえで、対策を考えれば説得力が出すことができる。
浮かんだアイデアはすべてメモする
「3WHAT・3W・1H」を糸口にして浮かんできたアイデアは、とりあえずすべてメモするとよい。思いついたときはそんなに大切ではないと思ったアイデアも、あとで見返すと意外に使えることがある。つまらないアイデアしか出てこないからといって手を止めると、思考も止まる。つまらないアイデアを捨てることはいつでもできる。小論文を学習し始めた初期段階では、とにかくできるだけ多くのアイデアをメモすることが、何よりも大事である。